この味を覚えている。

進行性の病気で器官切開をして、呼吸器をつけている。経管栄養なので、口から食べることはできないAYUちゃん。

視力はどれくらいかな。感覚遊びとして、スイッチに触って光遊びをしたり、フードプロセッサーの振動を楽しみながら?簡単なケーキを焼いたりも。もちろん、AYUちゃんは食べれないけど、小さな妹に喜んでもらった。

ある時、台所でお母さんの煮込みハンバーグを作る匂いがして、AYUちゃんはこれがとても好きだったと教えてもらった。

そこで、お母さんにベッドサイドで吸引ができるように控えてもらい、お試しで、ほんの少しの量をガーゼに包んで、口の中へ。果たして・・・。

AYUちゃんは奥歯でもぐもぐ、もぐもぐ。かみしめるようにもぐもぐ。

「覚えとったね、好きやったもんね」とお母さんの嬉し哀しの顔。自分の意志で動かせる身体部分はほとんどなかったけれど、口をもぐもぐできた。すごいね。そして、少し微笑んだような。きっと匂いも味も大好きだったから、覚えていたんだよね。ハンバーグのかけらは飲み込むことはできないので、ガーゼに包んだまま、そっと取り出した。

訪問学級を担当していたころの生徒さん。今はお星さまになって、家族を見守ってくれているはず。

くもん出版「おいし~い」より