「だくてん」(濁点)

昔、あるところに、ひらがなの国がありました。

「せ」の字について忠実に任務をはたしてきた濁点は、主を絶望させていたのは自分の存在だと気づきます。濁点がなければ、「ぜつぼう」ではなく「せつぼう」という悪くない言葉でいられたはずだったのにと。

濁点は主人に捨ててもらって、だれかに拾ってもらおうとしますが、誰も拾ってはくれません。そこへ、「おせわ」がきて「なんとかしてやる」と言います。

そして、「し」の沼のほとりまでくると、なんと濁点を放りこんでしまいます。 濁った水の深い深い孤独の中で、これでいいのだとつぶやく濁点。その泡が「きほう」の三文字となって水中に漂い始めました。さあ早く自分にくっつけ!いわれるがままに、濁点は「ほ」の字にくっつきました。そして「きぼう」(希望)」という言葉になって水面にうかびあがり、ぱちんと弾けて大気に溶けて行きました。

絶望の濁点はこんなふうにして、希望の濁点となったのでした。

作:原田 宗典  絵:柚木 沙弥郎 「ぜつぼうの濁点」より