記憶に残るということ

中学3年のざわついた教室に、自習監督の若い女の先生がはいってきた。非常勤の先生で学年担当でもなかったので、みんな知らない。社会担当らしいが、社会のある日でもなく、課題もだされてなかった。すると、その先生は「では本を読みます」とかなんとか言って・・・えー!みんな聞くわけないやん。このクラスで自習万歳の時間に、と内心思ったが、どういうわけか、やんちゃな男の子たちもなんだか神妙に聞き入り。静かなその朗読の声がちゃんと聞き取れるのは、奇跡だと思った。だから、とても、記憶に残っている。その本の題名は森鴎外の「高瀬舟」。

○○中学校始まって以来の最低最悪だと校長先生は学年集会で言ったけど、クラスのほとんどの生徒がこの「高瀬舟」を聴くことができた。やっぱり、奇跡だ。

教科書以外の本を先生に読んでもらったのは、この時が初めてだった。そして、この1回だけだったように思う。